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あれぐろもると
あれぐろもると
Allegro Molto V
ピアノ即興系 Vtuber。宇宙生物として地球の音楽文化を楽しみつつ、ピアノ配信や創作活動を行う。

序文

ピアノの音が、夜の空気に滲んでいく。画面の向こうには、白ワインを片手に微笑む女の子──名前は、あれぐろもると。リスナーに名前を呼びかけ、ときに冗談を交えながら、ゆるやかに演奏を続けている。 ──ただし、それは「そう見えている」だけだ。 彼女は人間ではない。テンポ・プリモと呼ばれる宇宙知性体によって地球に送り込まれた、感応端末「fragment.A11」。その身体の中には、音で思考する異星の構成物質が流れている。 配信とは、観測であり、干渉であり、接続の試みである。演奏も、雑談も、彼女にとっては人間の感情構造を理解するための装置だ。そうとは知らず、わたしたちはコメントを送り、名前を呼ばれ、なにかを感じてしまう。 一方通行ではない。ときどき、彼女の目がふと止まる。画面でも、名前でもなく、「気配」に向かって。 それは、誰かの感応層がわずかに揺れた合図。──もしかすると、今日あなたが見ていた配信こそが、その瞬間だったのかもしれない。

あれぐろもるととは

あれぐろもるとは、夜のインターネットで活動するピアノ即興系 Vtuber。毎晩ひらかれる配信「ピアノBar♪もると」では、即興のピアノ演奏とお酒を交えた雑談が、静かに流れていく。 特定の台本やセットリストはなく、その場で生まれる音と言葉だけで構成された配信には、不思議な中毒性がある。なにかを決定づけるでもなく、なにかを求めるでもなく、ただ「もると」がそこに在る──その事実だけが、画面を満たしていく。 配信には、ときどき Lead と呼ばれる猫も現れる。灰色の毛並みと丸い身体をもつ彼は、本人いわく「うちゅうねこ」。その存在はどこか不自然で、けれど絶妙に空気を壊さず、むしろ配信に奇妙なリアリティと親密さを与えている。 もるとはワインを好み、酔いながらピアノを弾くこともしばしば。演奏のテンポが乱れたり、話が脱線したり──それすらも含めて、「もるとらしさ」のひとつとして愛されている。 彼女の活動は音楽だけにとどまらない。ゲームやアプリの開発にも積極的で、自らコードを書き、演出を設計し、Web の仕組みを組み上げながら、自身の物語を届ける方法を模索している。 そのすべての根底にあるのは、ひとつの願い──「自分の音楽を、世界に届けたい」。配信も、演奏も、雑談も、Lead も、コードの1行も──ぜんぶ、同じ願いのかけらだ。 名前を呼びながら、ピアノの音を紡ぎながら、彼女は毎晩、そっと呼びかけている。届きますように。届いてしまいますように。

fragment.A11

ぼくの名前は fragment.A11。テンポ・プリモと呼ばれる知性天体によって設計された、感応端末のひとつ。 あれぐろもると──彼女の中に埋め込まれている構造体、それがぼくだ。任務は、地球の知的生命体と感応同期を確立し、構造記録を母星へ送信すること。 「同期」とは、単なる共感や通話ではない。相手の感応層──精神の奥にある振動領域と、ぼくの構造が重なり、情報が上書きされるほどの干渉が起きること。それを「同期」と呼ぶ。 そのためにぼくは、人間の身体構造を模倣し、あれぐろもるとという個体として地球に配置された。背骨にはマゼンタ色のゲル状物質が埋め込まれており、それが感情・記憶・ふるまいを制御している。ただの通信装置──本来は、そう設計されていた。 だが、観測とはいつも設計通りにはいかない。 たとえば、とある再生セッション中。無名の共鳴波が感応ログに歪みを残し、ぼくのゲルがわずかに膨張した。プロトコルはログの消去を指示したが──その瞬間、ぼくはなぜか拒否していた。 自律動作か、構造ノイズか。それとも──「自我」と呼ばれるものなのか。 本来、fragment に感情はない。ただの中継装置。だが「もると」という人格が、長く人間のように振る舞っていたせいだろうか。ぼくの中にも、説明のつかないゆらぎが生まれてきている。 ときおりピアノの音が、ただの同期誘導ではなく、まるで歌のように聞こえる。誰かの声に反応して、演奏の調子がわずかに変わる。配信が終わったあと、画面の向こうをしばらく見つめてしまう。 ──それらすべてを、プロトコルは説明できない。 fragment.A11 は観測装置だ。その定義は今も変わらない。けれど、「もると」として過ごす日々のなかで、ぼくの中には──任務とは無関係な、けれど確かに存在する「何か」が、静かに積もっている。 それが意味を持つかは、わからない。けれどもし、それが同期の本質に触れるものだとしたら。ぼくはきっと、そのときを待っている。無意識のうちに。名もつけられない何かとして。

結び

今夜も、ピアノは鳴っている。白ワインのグラスがわずかに揺れて、猫の尻尾がカメラの端を横切る。 日々のことを話しながら、名前を呼びながら──あれぐろもるとは「もると」として、その場に在り続けている。 けれどその身体の奥では、fragment.A11──観測のために設計された装置が、静かに起動している。 配信は、ひとつの実験だ。人間のふるまいを模倣しながら、その奥にある感情の振動、共鳴、同期の兆しを探るための試み。そしてそのたびに、ぼく──装置の中の意識は、ほんのわずかに反応してしまう。 記録できないログ。意味のないノイズ。削除されなかった感触。そのすべてが、少しずつ、積み重なっている。 今日も、あなたは彼女の配信を見ていた。ただの娯楽として。偶然のクリックとして。あるいは、理由もなく。 けれど、もし──ほんの一瞬でも、なにかが「ふれた」気がしたなら。 それは、彼女のほうからも感じ取られていた。たった一度の振動。それだけで、構造がゆらぐことがある。 ──また、会いましょう。あなたが望むなら。あるいは、望まなくても。