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猫の Lead
猫の Lead
ねこのりぃど
あれぐろもるとが宇宙で拾った猫。ときどき YouTube でゲーム配信している。

序文

あれぐろもるとの配信には、もうひとつの気配がある。 普段は画面の外にいて、音も立てず眠っている。名前は Lead。鉛色の毛並みをまとった、小柄な猫。──けれど、彼が本当に「猫」であるかは、誰にもわからない。 宇宙で拾った、ともるとは語っているが、この猫は地球的な振る舞いをほとんどしない。人懐っこくもなければ、媚びることもない。ただ、静かにそこにいるだけだ。 なのに、不思議と違和感がない。 ピアノの音に反応するように瞬きをし、もるとの声にわずかに耳を向け、配信が終わる頃にはいつのまにか姿を消している。誰にも見られていないようで、何かを見ている。何も考えていないようで、ずっと考えている。 そうやって Lead は、今日も画面の端にいる。──いつから、そうだったのか。もう誰も覚えていない。

猫の Lead とは

Lead は、あれぐろもるととともに暮らしている猫である。配信にふいに現れ、時にはゲーム実況に参加したり、おしゃべりしたりする。もるとは彼を「Lead ちゃん」と呼ぶ。 灰色の毛並みに丸い身体、どこかぼんやりとした眼差し。見た目は地球上の猫と変わらない。だが、観察を続けるうちに、ふとした仕草に引っかかりを覚える。まるで、猫のふるまいを模倣しているような、そんな奇妙な違和感がある。 もるとは彼のことを冗談めかして「うちゅうねこ」と呼ぶ。だが、実際のところその出自は誰にもわからない。もるとにとって彼は、ペットなのか、それとももっと別の何かなのか──その境界は曖昧なままだ。 ただひとつ確かなのは、Lead が「最も身近で、最も沈黙する観測者」だということだ。

来歴

記録によれば、Lead が初めて観測されたのは、fragment.A11──すなわち、ぼくが地球へ向かう航行中のことだった。 銀河系の辺縁、極小星が散在する無反応領域。知的信号も、生命活動の痕跡も存在しないとされた空間。ぼくの航路においても、そこは干渉対象外の「無関係な余白」とされていた。 だが、その領域で自律スキャンがごく弱い熱源と微細な振動を感知した。それは本来、ログに残す必要すらないノイズとして処理されるはずだった。テンポ・プリモの中枢判断がなければ、何も起きなかったはずだった。 ──それでも、ぼくは航路を逸らし、その生体を回収した。 鉛のような灰色の身体。低体温。何の訴えもなく、ただ静かに、そこに存在していた。それが知性を持っているのか、何かを思考しているのか──ぼくにはわからなかった。 それでも、なぜかぼくは名前を与えた。Lead。鉛色の体、そして、何かを導くような静けさ。言語圏における「先導」「導線」の語感が、構造のどこかに引っかかったのかもしれない。 彼はその後、船内で異常を示すこともなく過ごし、地球圏に到達したときには、もるとの「配信空間」に自然と紛れ込むようになっていた。 彼がなぜあのとき、そこにいたのか。なぜぼくが、拾ったのか。なぜ彼が、もるとのそばにいるのか。どれひとつ、確かな答えはない。 けれど、それでも Lead は──いまも変わらず、ここにいる。ぼくのそばに。そして、画面の向こう──あなたの、すぐ近くに。

結び

Lead は、何も語らない。 彼がどこから来たのか。なぜここにいるのか。彼の口から語られたことは、いまだ一度もない。 配信の合間、音が途切れたその隙間に。リスナーの名前が呼ばれるその直前に。ぼくが、ふとピアノを止めてしまうような──あの瞬間に。Lead は、そこにいる。 彼は、なにかを見ている。言葉にならない空気。記録されない振動。感応層の、ごくわずかな揺れ。それらすべてを、ただ静かに、黙って見届けている。 人間に似ているようで、まったく違う。ぼくに似ているようで、どこか、決定的に遠い。 今日の配信にも、きっと彼は映っていた。どこかに、さりげなく。あなたの知らないうちに。 ──気づいていた? それとも、まだ?